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税理士 公認会計士
税理士の将来性はないって本当?AIには代替できない理由について解説
税理士は、弁護士や公認会計士と並んで人気の国家資格の一つです。
しかし、税理士を取り巻く環境の変化によって、税理士には将来性がない、という意見も聞かれるようになりました。そうした意見の一つが、税理士の仕事はいずれAI(人工知能)に置き換えられる、というものです。
しかし、税理士の仕事の中には、人間でなければ対応が難しく、AIには代替できないものもあります。またAIが得意とする単純な会計業務のみをこなすのではなく、専門性を高めたり、より需要が高い業務にシフトしたりすれば、税理士としてこれからのAI時代を生き延びることが可能です。
本記事では、税理士にはまだまだ将来性がある理由や、税理士業界の動向の変化、AIに仕事を奪われないために必要なことを紹介します。
目次
税理士の将来性がないといわれる理由
税理士とは、税務に関する専門家として、税金に関する業務の代行やアドバイスを行う仕事です。特に税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つの業務は、税理士の独占業務(税理士法第52条)とされており、たとえ無償であっても税理士以外の人が行うことはできません(※)。
しかし、こうした独占業務の存在にもかかわらず、税理士には将来性がない、という意見も存在します。ここでは、税理士には将来性がないといわれる理由を3つ紹介します。
- 人工知能(AI)に代替されるといわれているため
- 税務申告の作業が簡易化したため
- 顧客である中小企業の数が減少しているため
人工知能(AI)に代替されるといわれているため
1つ目の理由は、税理士の仕事の一部が、今後AIによって代替されるといわれているためです。
2015年に行われた株式会社野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究によると、今後10~20年間で、日本国内における仕事の約49%がAIによって代替される可能性があります(※)。そうした仕事の中には、企業の会計監査係員(会計監査人)も含まれているため、それとよく似た税理士の仕事も将来AIに奪われる、という主張が一部で行われました。
税務申告の作業が簡易化したため
2つ目の理由は、会計ソフトの普及によって、税務申告の作業が簡易化したためです。その結果、税理士を必要とせず、自力で税務申告を行える企業が増えました。
実際に、企業は会計業務や税務申告の効率化のため、会計ソフトをはじめとしたICT(情報通信技術)の活用を進めてきました。総務省の平成29年版情報通信白書によると、約67.7%の企業が経理・会計の分野で何らかの情報システムを導入しています(※)。
このように税理士が関わる業務分野でICTの活用が進んでいることも、税理士に将来性がないといわれる理由の一つです。
顧客である中小企業の数が減少しているため
3つ目の理由は、税理士の顧客である中小企業の数が減少しているためです。中小企業庁の統計によると、中小企業の数は2016年から2021年にかけて、1年当たり約4.3万社のペースで減少しています(※)。
特に個人で開業している税理士にとって、地域にある中小企業は重要な顧客の一人です。中小企業の数が減少するにつれて、税理士の顧客となる企業もまた減っていくことを意味します。
税理士の将来性はあるといわれる理由
税理士に将来性はないといわれる一方で、税理士試験の受験者数は令和3年から3年連続で増加しています。特に令和5年度の受験者数は3万2,893人に達し、前年度から4,040人も増加しました(※)。
このように税理士の人気が復活傾向にある理由の一つは、新型コロナウイルス感染症の影響により、大学生や社会人がステイホームを余儀なくされ、資格取得に対する意欲が高まったためとされています。
しかし、それ以外にも税理士が再評価されている理由は2つあります。
- 人間でなければ対応が難しい仕事もある
- 業務特化型の税理士のニーズが高まっている
人間でなければ対応が難しい仕事もある
税理士の仕事には、会計業務や税務申告など、AIによって代替される可能性が高いものも存在します。しかしそうした業務は、税理士の仕事の一部に過ぎません。
税理士の仕事には、人間でなければ対応が難しいものもあります。例えば、コミュニケーションによって相手の考えや気持ちを汲み取り、税務に関するアドバイスを提供するコンサルティング業務(税務相談)です。
先ほどの野村総合研究所とオックスフォード大学の共同研究でも、「必ずしも特別の知識・スキルが求められない職業に加え、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業については、人工知能等で代替できる可能性が高い」としている一方で、「抽象的な概念を整理・創出するための知識が要求される職業、他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は、人工知能等での代替が難しい」とも述べています(※)。
顧客の中には、仕事相手は人間の方がよいという人もいます。今後、AIに仕事を奪われないためには、人間だからこそできる税理士業務にシフトしていくことが大切です。
業務特化型の税理士のニーズが高まっている
税理士の人気が復活したもう一つの理由は、業務特化型(業種特化型)の税理士のニーズが高まっているためです。業務特化型の税理士とは、自身の強みや得意なことを活かし、特定分野の専門性を高めた税理士を指します。
例えば、飲食業や不動産業、理容業・美容業、医療機関など、特定の業種に関するノウハウが豊富で、会計や税務のみならず、経営に関するアドバイスも可能な税理士が該当します。また相続や不動産売買、中小企業の事業承継(M&A)、スタートアップ支援、補助金申請など、顧客からのニーズが高い業務に特化した税理士もその一例です。
専門分野を確立し、他の税理士にはない付加価値を提供することで、税理士として安定したキャリアを築けます。
税理士業界の現状
税理士業界では、顧客となる中小企業の減少、AIや会計ソフトの普及といった逆風が吹く中で、税理士登録者数が年々増加しています。つまり税理士としての仕事の一部が、環境の変化により失われる可能性がある一方で、税理士人口そのものは増え続けているのが現状です。
以下の表は、税理士登録者数の推移を表したものです(※)。
会計年度 |
登録者数 |
---|---|
平成7年度 |
62,550人 |
平成12年度 |
65,144人 |
平成17年度 |
69,243人 |
平成22年度 |
72,039人 |
平成27年度 |
75,643人 |
令和2年度 |
79,404人 |
令和3年度 |
80,163人 |
令和4年度 |
80,692人 |
ここ20年間のデータを見ると、平成7年から令和4年にかけて、税理士人口は約1万8,000人も増加しました(※)。令和4年度の税制改正により、税理士試験の受験資格が緩和されたことも追い風となって、今後も税理士人口がますます増えていくと予想されます(※)。
税理士人口が増えるにつれて、税理士一人当たりの顧客数は減少していくことが予想されます。これから税理士として長くキャリアを築くためには、どのように他の税理士と差別化し、新たな顧客を獲得できるか、という競争戦略が求められる時代になりました。
税理士業界の動向変化
しかし、税理士業界には、これから税理士をめざす人にとって好材料となる変化もあります。
例えば、税理士の高齢化や、副業・兼業に関する規定の緩和などの変化は、税理士にとっては活躍の幅を広げるチャンスです。税理士に求められる役割を敏感に察知し、時代の変化に対応しましょう。
税理士業界の動向変化を2つのポイントで解説します。
若手税理士にとってはチャンスがある
税理士業界は高齢化が進んでいます。日本税理士会連合会によると、平成26年の時点で税理士の30.1%が60歳代のシニア層となっており、20歳代の若手税理士は0.6%しかいません(※)。
特に税理士法人は、組織の若返りのため若手採用に力を入れており、まだ若い人にとっては大きなチャンスです。
副業・兼業する会社員の顧客が増える
税理士の顧客である中小企業の数は、年々減少していると説明しました。
その一方で、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改訂し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という記述を削除したため、これから副業・兼業する会社員の顧客が増えることが期待されます(※)。
副業・兼業すると、自分自身で確定申告をしなければなりません。これまで一度も確定申告をしたことがない人にとってはハードルが高いため、税務に関するアドバイザーとして、新たな顧客を獲得するチャンスです。
AIに奪われる業務と奪われない業務
目覚ましい進歩を続けるAIですが、税理士の業務の中には、AIによって奪われる可能性が低いものもあります。AIに奪われる業務と奪われない業務の違いは、AIが得意としている領域かどうか、という点です。
AIは必ずしも専門性を必要とせず、汎用的な知識やデータ分析によって問題を解決できる領域を得意分野としています。例えば、会計業務やプログラミング、翻訳など、一定のルールに基づいて対処できる業務は、今後AIによって急速に代替される可能性があります。
一方で、抽象的・創造的な思考が必要な領域や、人間らしい社会的知性が求められる領域は、AIが特に苦手としている分野です。例えば、交渉や説得、コンサルティングなどの業務は、AIによる自動化が難しいとされています。
これから税理士をめざす人は、AIに奪われにくい分野で強みを発揮できるよう、早い段階から学習方針を決めておきましょう。
今後の税理士に求められることや活躍するために必要なポイント
税理士として長く活躍し続けたい人は、以下の2点を意識して、事業戦略を考えることが大切です。
- AIなどのテクノロジーを有効活用する
- 新たなニーズが生まれた業務に対応する
まずはAIなどのテクノロジーを有効活用し、定型業務をなるべく省力化しましょう。税理士の仕事の一部を奪うと言われるAIですが、うまく活用すれば、定型業務を省力化し、効率的なリソースの配分が可能です。定型業務はむしろAIによって代替することで、その分のリソースをより付加価値の高い業務に回せます。
次に税理士業界の変化によって、新たなニーズが生まれた業務に着目しましょう。例えば、近年需要が高まっているのが、中小企業の事業承継です。中小企業庁によると、中小企業の経営者は急速に高齢化が進んでおり、2020年9月の時点で60~70代がピークとなっています(※)。今後、事業承継による世代交代が必要な中小企業が増えるため、事業承継に強い税理士になれば、新たな顧客を獲得することが可能です。
その他、グローバル化に伴って需要が増加している国際税務や、相続・不動産売買のような資産形成に関わる業務など、税理士業務のニーズの変化を見極め、柔軟に対応することが大切です。
未経験から税理士へなるために
税理士になるための方法は、大きく分けて2つあります。
- 弁護士や公認会計士の資格を取得する
- 税理士試験に合格し、2年間の実務経験を積む(試験合格前でも可)
未経験の人が税理士をめざす場合は、大学や専門学校などで数年間勉強し、税理士試験を受ける方法が一般的です。
税理士試験は、会計学に属する2科目(簿記論や財務諸表論)と、税法に属する3科目(所得税法または法人税法のいずれかと、残り2科目の選択制)の計5科目 に分かれており、1科目ずつ受験できます(科目合格制)。税理士試験は難度が高い国家試験ですが、計5科目の合格に向けて、自分のペースで勉強を続けることが可能です。
専門学校に通い、税理士試験を対策するならば、仙台大原簿記情報公務員専門学校の税理士合格サポート制度の活用がおすすめです。税理士コース・税理士チャレンジコース在学中に3科目以上に合格した場合は、卒業後も次の税理士試験まで、授業料免除で試験対策ができる制度で、税理士にぐっと近づくことができます。
税理士に将来性はある!AIでは代替できない税理士になろう
税理士という職業は、一部で将来性がないと言われています。しかし、環境の変化に対応し、AIに奪われにくい業務にシフトすれば、税理士として長くキャリアを築いていくことが可能です。中小企業の事業承継や、国際税務、相続問題など、顧客ニーズの高い分野の専門性を深め、プラスアルファの付加価値を提供できる税理士をめざしましょう。
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